154人が本棚に入れています
本棚に追加
「入って?」
「で、でも………」
「ここまで来てなに言ってるの。
会いに来たんでしょ?恭一に」
「………」
しごく真っ当な指摘に言葉に詰まる。
「顔、見せてあげたら恭一も安心するから。
あなたの名前ばかり口にしてて、ちょっと気持ち悪いの。ね?」
まただ………。
眉間にしわを寄せて、そう切り捨てる表情が先生を感じさせる。
「さ、どうぞ」
促されるままに、小さく頭を下げて病室に足を踏み入れた。
「っ…………」
ベッドに横たわる先生は、頭から耳にかけて包帯が巻かれ、上半身は左手を固定させるようにたくさんの白い布で覆われていた。
その痛々しい姿に、息が止まり思わず両手で口を押さえた。
途端に揺らぐ視界。
一歩も動けない私の横を、さっきの女の人がスタスタと通り過ぎる。
と。
「恭一、起きて。
恭一!!」
眠っている先生をゆっさゆっさと激しくゆすり始めた。
ぎょっ、として一瞬涙がぴたりと止まる。
「……ん」
「早く起きて!
カオルちゃん、来たわよ。カオルちゃん!!」
足りないとばかりに、今度は頬をバシバシと打つその荒っぽさに、オロオロしていると。
「カ………オル?」
「そー!カオルちゃん!!」
「いつ?………どこ?」
「今!ここ!!」
最初のコメントを投稿しよう!