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びしっ、と私を指差され、驚きで背筋が伸びる。
その指にあわせて、先生の顔がゆるゆるとこちらに動く。
「カオル………」
先生のかすれた声と、少し蒼白い顔に一度止まっていた涙がポタポタとあふれ出してくる。
そんな私に女の人がそっと近寄り、優しく背中を押してくれた。
「もっと近くで顔見せてあげて」
先生のすぐそばまで送ってくれると、す、とその手が離された。
「………どした?
どこか痛い?」
心配そうに私を見上げる先生に、大きく首を振る。
なんで……。
なんで私の心配してるの?
先生の方が、こんなに大怪我して痛そうなのに……。
後から後から溢れてくる涙を必死に拭う。
「なんで泣いてんの。
誰か何か言われた?」
「ちがっ………先生……ケ、ケガっ………」
涙が多すぎて喉元がけいれんしたよう言葉がつまる。
「やだ、カオルちゃん、恭一ならぜーんぜん大丈夫だからね!」
私のあまりの泣きっぷりに驚いたように顔をのぞき込む。
「左腕はポキッと折れただけだし、耳はガラス刺さってたから縫ったけど、鼓膜は全然きれいだったから、大したことないケガよ!」
ポキッ………刺さる………。
そんな大怪我………。
「樹(いつき)……ちょっと黙ってて。
カオルが余計落ち込んでるから」
「お姉様と呼びなさい、お姉様と」
「お……姉、さん?」
じっとその顔を見つめてみると、目尻がふわり、緩められた。
「初めまして。恭一の姉の樹です」
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