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そこは真っ昼間にしては薄暗く、照明とされる灯りが灯されていなかったので恐らく誰もいないのだろう。
にしても部屋全体誇りっぽさもあり、クローゼットやコート掛け、鏡台は埃が被っていて長年使用されていない事がわかる判る。
視点を鏡台に移せば、鏡の前にいくつかの写真立てがあった。
少女が家族に囲まれて微笑んでいるもの、若い青年とのツーショット、診療所らしき所で一人の赤ん坊を抱えて感激しているもの、赤ん坊の成長した姿のものが数点あった。
どうやらこれは最初に述べた少女の半生らしく、額縁はごつごつした派手めの金製だ。
余程大事だったのだろう、部屋は誇り臭いのにそれらだけはぴかぴかに磨かれているようで真新しく見える。
「かあ、さん……」
奴は赤ん坊を抱える写真を手に取り、そこに写っている女性に声をかけた。
反応はない。それは奴自身も解っている。
けれども、毎日毎日そう呟かなくてこ寂しさで心が押しつぶされそうなのだ。
「何で死んじゃったの? 何でアンジェを置いて行ったの?」
毎日問うても返事はない。
それでも問わなければやっていけない。自分の事をどう思っていたのか知らないまま彼女は死んだので、とても不安に思っているのだ。
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