1 新生活

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だが。 1ヶ月を過ぎても彼氏は更に、仕事に没頭している。 まるでもう、私の事すら頭にない。 心配した私が言葉を掛けても、配慮すらもない片言の返事をする。 この人の大切なモノって一体何なのだろう。 疑問というのか、不審に思えてきていた。 私は、仕事を辞めてまで、わざわざ地元を離れてここまで来たのに。 家の中に居座り続けても、私はまだ奥さんになるのも程遠く感じて。 一体、ここに何しに来たのだろう。 少しずつ、そう思うようになってきていた。 実の所。 恥ずかしい事に。 住民票も転居届も、まだ市役所に提出をしていないのだ。 もちろん、婚姻届なんて未記入のままだ。 むなしくも。 私の名前と、保証人に私の親の名前が記入されているだけ。 こんな、中途半端な始まり方で、この先大丈夫なのか。 自分の未来に不安もまた、感じ始めていた。 日中の間は、一人ぼっち。 片身の狭い思いをして、201号室で過ごしていた。 彼が休みの日に、相変わらず手続きを後回しにしてるもんだから、それについて問い掛けた。 「ねぇ、いつ、どうするつもりなの?」 「一つずつ片付けて行きたいから、もう少しだけ」 「うん、分かった。でも、そんなに忙しいの?」 「僕しか、出来ない仕事だからね」 不器用な癖に、一人で全て抱え込む。 そんなふうに以前は可哀想だと思っていたけど。
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