243人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
新しいアパートは6軒続きの集合住宅。
恋人同士で同棲中。
そう簡単に言えたらいいけど。
結婚する目的で、このアパートを借りたのだ。
そこは私も変なプライドがあって。
軽い言葉で、片付けたくない。
そう思い、自然と自分の中で、重くしていた。
こんな中途半端な状態のままだから、挨拶まわりも、出来やしない。
それどころか、いつも喧嘩ばかりしている、変な住人だと思われていたりして…。
実際は、近所迷惑だと思われてはいないかと。
気まずくて。
ご近所さんに今更、どう顔を合わせたらいいんだろう。
私はもう、日が経つにつれてそう思い、身動きが取れなくなってしまっていた。
だから、最近になって。
私はなるべく、誰にも会わないようにと。
こっそりと、気分転換に外出をして、新しい街並みを散策していた。
今日も天気はいいし。
少し北の方を、散策してみよう。
辺りを見渡し、静かな様子を確認して、アパートの階段を降りた。
えっと、北は向こうだから…。
フッと一瞬、何か色の有るものが見えた気がした。
アパート脇の狭い通路。
壁にもたれながら、薄緑色の作業服の男がタバコを吸いながら立っていたのだ。
まさか、もしかして…。
目が合ってしまった。
私が軽く会釈すると、その男も何だか意味有り気に、笑みを浮かべてこちらをジッと探るように見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!