第6章

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「では、この森の家ではチームの代表2人で一室に入っていただき4名は広間で待機していただきます。」 怪しさを出すためか目元まで隠れたフードに長いマントを着た案内係にそう言われたが… 森の家と言うかどう見ても洋館。何?この足音消しそうな絨毯とか、中央のこの広い階段とか、どう見ても立派なお屋敷だと思う。 しかしそれをじっくり突っ込む暇もなく、ホールにいた生徒が野々宮達に気付き、広間に入る処かあっという間に囲まれてしまった。 何だこれ。皆、広間入れないのか?広間入り待ち? …って、ちょっ…痛った!誰か足!踏んでる! 「…っ!」 腕背中肘当たって…まさかこれ、わざとかよ?! 一気に囲まれ押し潰されそうな中、明らかな嫌がらせはご丁寧に野々宮達の視線が無い時をうまく利用してきた。 「…っいたっ!」 「やめっ痛いって!」 どうやらそれは俺だけじゃなく、後ろから聞こえた森内達の声に振り向けば、二人も複数の生徒に髪を捕まれ服を引っ張られ、涙目で抵抗していた。 「先輩や野々宮君と一緒だからって調子のってんな!」 「入ってきたばっかりのくせに!馴れ馴れしいんだよ」 野々宮達には聞こえないように小声って。ただ同じチームになっただけだろ。 ――男子校の癖に、女々しすぎるいじめかよ! 俺に近づく腕は加減なくはね除け、二人に絡む腕も遠慮なく叩き落とし、非難の声は完全無視で人混みから二人を引っ張って野々宮と先輩達の側に押し込んだ瞬間― ピリッとした痛みが右腕に走った。 「…チッ」 な…何?!引っ掛かれた?しかも舌打ち? みみず腫とかなってなきゃいいけど、毎日でも会えるのに何でイベントだからって寄ってくるんだよ。 ――しかも室内に限って痴漢紛いなこともされるし。 二人を助け出した後諦め悪く、いじめとは絶対に違う手つきで俺の尻を触る後ろのやつ。 「…ぐっ!」 八つ当たりも含め肘鉄を食らわせた。 「青井…ありが…え?ちょっ腕!」 腕?やっぱりみみず腫なってんの? 一緒に抜け出した森内の変に焦った声に、何を感じたのか周りと僅かに空間ができ、引っ掛かれた腕を確認すると何故か真っ赤… は?…マジ? 「何で?何したの?」 「これ!ハンカチ使って」 唖然と傷を見つめている俺とは反対に、井高まで気付いて慌てて自分達のハンカチを俺の傷口に押し当ててくれた。 「あ…りがとう」 傷口見たせいか余計に痛い気がするけど、二人のハンカチすぐ真っ赤じゃん。これってもしかして結構ひどい? 「健太…ろぉおお?」 都筑先輩の驚いた声に顔を上げれば、急いで側に来てくれ、押さえていた腕に自分のハンカチも取り出してぎゅっと圧迫してくれた。 「指とか腕は動く?傷は深そう?急いで怪我の処置をしよう。部屋が何処かにあったよね。」 心配してくれる声に、ちょっと泣きそう。 指も動くけど…でも更に痛みはました気がする。 「…青井っ」 野々宮まで青い顔しなくても。 実際徐々に痛いというか熱い感じだけど、こんなとこで大事にしたら中止とかになるよな? そうなったら、せっかく頑張った要さんと海の楽しみ壊しちゃうじゃないか。 「大丈夫だよ。森内も井高も心配かけてごめんな。ハンカチダメに―」 「私がご案内します。野々宮様も主催代表としてご一緒願います。では、他の方は広間にお待ちください。」 周りが騒がしくなって慌てて腕を隠すと、最初に案内した怪しいマントのスタッフが急に現れ、俺を都筑先輩から強引に引き剥がした。 「…っ」 傷!痛いんですけど?強く押さないで!止血のつもり? 「健太朗痛がってます。優し」 「通りますので道をお空けください。野々宮様も急いでこちらに」 「健太郎っ」 都筑先輩の声を遮ったスタッフに生徒は何か感じたのか素直に道を空け、親に怒られた子供のように腕を捕まれたまま、俺と野々宮だけがホールの奥に続く通路に通された。 「青井っ?大丈夫?」 大丈夫だと伝えるために笑顔で返すが正直握られてる腕は痛い。 このスタッフ何か恨みでもあるのか? 「他の生徒会の方々には野々宮様から電話でご連絡されますか?」 「…こういった時は持ち出さないので、すみません。携帯を部屋に置いてきました。」 「…そうですか。では、こちらから連絡しますね。」 そうスタッフは心配そうに言ったが、ふと見てしまった口元はニンマリとした感じで口角が上がっていた。 ――何だ?
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