第1章

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靴を履いていると、母さんの囁くような声が漏れるのが聞こえたが、俺は聞こえない振りをして靴紐をキツく縛った。 「行こう、母さん」 母さんは、ぼんやりと家の中を眺めていたが、俺の言葉に引き戻され、優しく微笑んだ 「忘れ物はないわね?真白(ましろ)はもう車に乗ってるわよ」 「大丈夫だよ、必要な物は全部持った」 「そう、じゃあ…行きましょうか」 玄関の外は蒸し暑く、太陽が丁度真上まで来ようとしている そんな茹だるような暑さが続く夏休み、俺達は父さんの実家へと移る事になった。 母さんが囁いた声が、頭の中で何度も繰り返される まるで、終わらない夏の日を何度も過ごしているようだ 俺は、車の窓から見える家に向かって声を出さずに問い掛けた 『アナタ…』と。 返事なんか、ある訳ないのだけれど .
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