心が走る。

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 俺が提案した帰宅路はこれだけではない。  人通りが多く自転車で通るには不便な道は避け、尚且つ、最短な道を洗い出した。  大通りの横断ではまず、信号の変わる時間を計測した。そこから目の前の信号を待つのか、もう一つ隣の信号で大通りを横断をするか判断をした。ここには俺の経験則も含まれており、最適で最速の信号選びができるようになった。  急な坂は以前同様避けているが緩やかでかつ彼女の家へ最短の坂も発見した。  今日も新たに裏道を通るショートカットを発見した。日に日に総合帰宅時間は短縮されいよいよ学校から彼女の家まで18分30秒となった。 「さすが帰宅部(?)のエースです、速いです!」 「ふっ、このくらい当然。自転車での帰宅が徒歩の帰宅より優れている利点はなんだと思う?」 「え? 早さじゃないんですか? あと、徒歩より楽、とか?」 「その通り。両方正解だ。だが、それの条件は意外と限られている」 「と、言いますと?」 「スピードを出せない場所では自転車はその力を10分の1も発揮できない。例えばそう、人ごみの中。曲がりくねった道。上り坂」 「あー、言われてみると」 「そういう場所では徒歩の方が自由が効き素早く動ける。自転車で帰宅する俺がそういう道を選択するのは限りなく不利なんだ」 「不利って、あははっ!」  背中で笑い声が聞こえる。なにがおかしかったのだろう。 「だから、俺にとっての最速の道は距離が最短な道というわけではないんだ。たとえば、この道のように、一気に! スピードが! 出せる! 一本道!!」  俺はまっすぐな道に障害物がひとつもないことを確認すると思い切りペダルを漕いだ。この瞬間だ。この瞬間がいつも気持ちいい。 「わー! はやいはやい!」  うしろの彼女はジェットコースター気分でご満悦の様子だった。背中で俺はそれを感じて、都合よく使われているのにもかかわらず。 「もっとスピードあげるぜェ! 捕まってろ!」 「きゃー!」  俺は不覚にもこの瞬間を楽しんでしまっていた。
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