心が走る。

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 ◇  雨が降った。最悪の自転車日和だ。  雨が降った時の自転車登校組にとれる選択肢は以下の4つである。  1、カッパの使用。一般的な選択肢だ。顔以外の全てを雨から守る素敵な道具。とはいえ蒸し暑いこの季節には取りたくない選択肢ではある。  2、傘の使用。この蒸し暑さや、かっこ悪さからカッパを拒んだ人間の選択肢だ。だが、片手運転、ダメ絶対。  3、いっそ歩く。アホか、遅刻したいのか、それと帰宅速度が大幅に下がるありえない。  4、車で送ってもらう。たぶん攻守とも最強の手段。だが、自転車組のプライドに傷がつくのでNG。 「カッパだな」  俺はコンビニで買った安い雨がっぱを身にまとい、家を出た。  放課後。 「しまった」 「いやー、ガンガン降ってますねー。どうします? アッシー先輩?」  さすがに二人分のカッパを用意はしてない。つまり、ふたりのうちどちらかは雨に濡れながら帰ることになるということだ。  となると、濡れるのは俺の方なんだろう。 「あ、これ、カッパ貸すよ?」 「え、嫌です。ジメジメするじゃないですか。絶対嫌です」  まさかの断固拒否だった。 「え、じゃあ君が濡れちゃうけど……」 「あ、私傘あるんで」  ということで彼女は俺の後ろで傘をさして自転車に乗りました。  ◇ 「今日、あんまりスピード出さないんですね」 「あ、雨だし。あんまりスピード出すと危ないので……」 「アッシー先輩って自転車の速さによってキャラ変わるんですね……」  だが、こうノロノロと走っていたのでは彼女がヴァイオリンの稽古に遅れてしまう。なにより俺の帰宅時間に関わる。  雨が関わらずスピードの出せるところは、出した方がいいだろう。  そう、例えばトンネルとか。 「前方よし! 障害物無し! 3、2、1、0!」  いつものセリフとともにスピードを上げる。そのスピードに俺のカッパのフード部分は風にやられすっかり脱げてしまっていた。でもトンネルみたいに視界の悪いところでスピード出したら駄目絶対!
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