心が止まる。

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 ◇  俺は彼女に恋をした。  そりゃ恋ぐらいするだろう。俺だって思春期だ。だけど、今まであまりにも出会いがなかったに過ぎない。  彼女は可愛い。美少女だ。そんな子とほぼ毎日会話をして、特別な関係で。  今まで全く女の子と会話がなく、耐性のない俺が恋に落ちないわけがない。  けれど、彼女はたぶん俺のことを好きではない。よくて数ある男友達のうちの一人だろう。  彼女の人間関係を知っているわけではないが、才能があって顔も可愛くて、フレンドリーで素敵な女の子である彼女の周りに男がいないわけがない。  俺にとっては彼女はただ一人の女性だ。だが、彼女にとっては違うだろう。  彼女は俺を頼りにしている。なぜなら俺が帰宅部自転車部門県内1位(自称)だからだ。  彼女と会話をするのは帰り道だけ。俺の唯一の取り柄である帰宅だけが、俺と彼女の繋がりだ。俺はそれを失うわけにはいかない。失いたくない。  彼女も失いたくない、と思っているはずだ。それは彼女にとって俺は必要なものだからだ。  俺を、彼女は利用する。俺はただの自転車タクシーだ。俺は利用されているだけだ。  女性とは男を利用して生きていく生き物だ。女性は、ちやほやされ自分では何もせず、周りの下僕のような男達がめんどくさいことを処理してくれる、それを願う生き物である、と俺は思っている。  バブル時代に流行ったとされる言葉。「メッシーくん」「ミツグくん」「アッシーくん」。俺はアッシーくんだ。美少女である彼女に利用されるだけの男だ。  それでいい。  今まで何もなかった俺なのだ。利用されたっていいんだ。それでも、初めての繋がりなのだ。愛おしく思ったっていいだろう?  これは哀れな男の片想いだ。きっとこの帰宅の関係が終わった時、それが俺の恋の終わりなんだ。  彼女の足が完治し、ヴァイオリンのコンクールが終わったら、そこが恋の終着点。失恋という恋の目的地だ。  俺はそれでいい。それでもいいんだと、思っている。  そんな恋があってもいいと、俺は、納得しているんだ。  それで、俺は、本当によかったんだろうか?  そんなことわかるわけないだろう。  だって。  初恋なんだから。
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