自転車が止まる。

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 ◇  水曜日がやってきた。  彼女のコンクールは今週末にある。  今日を含め、あと3日が、彼女と帰るはずだった期間だった。  けど、残り3日も彼女はあの男と一緒に帰るだろう。なぜなら、バイクの方が俺の自転車よりも早いからだ。  すこしでも早く家に帰宅したい彼女にとって、俺ではなく、あの男のバイクを選ぶのは自然なことなんだ。  俺に勝ち目はない。出る幕なんざない。  しかし、だからなんだというんだよ。大したことじゃないはずだ。  俺は失恋すると分かっていた。わかって恋をした。ただ、失恋するのが少し早くなったに過ぎない。  効率がいいじゃないか。本来より一週間早く諦めることができるんだ。むしろラッキーだとすらいえる。  今日は、教室から出なかった。窓から校門を見た。彼女がいた。男もいた。  しばらく彼女と男は会話をし、そしていなくなった。 「あれ? 浅川君、今日は帰らないの?」 「あ、え……と、うん」  誰かから話しかけられた。本当に誰だろうか。知らない女性だ。あ、クラスメイトだ。名前はまだ知らない。 「ありゃ、芦野ちゃんともう喧嘩しちゃったか」 「あしの?」  知らない名前が出てきた。 「なにとぼけてるのよ。芦野姫子ちゃんよ。彼女でしょ?」 「いや、誰のことだか……。それに俺に彼女はいないよ」  クラスメイトは不思議な顔で俺を見た。どこから聞いてきた噂なんだろうか。たちの悪いうわさが広まったものだ。クラスメイト誰一人と会話を交わさない俺にはそんな噂初耳だ。今日も早く帰っていたなら、こんなうわさを聞くこともなかったんだろう。 「なにも隠さなくてもいいじゃない。いつも一緒に帰ってたでしょ」 「いやいや、俺はいつも一人で……」  違う。少なくともこの1か月は違っていた。 「あの子の名前……芦野って言うのか?」 「あの子って……。あなた達名前も知らずに付き合っていたの?」 「いや、だから付き合ってないってば」  事実、俺は今失恋しているんだ。 「あー、そうなんだ。じゃあ、今は狙ってるところってことだー?」  意地悪そうに女は言った。俺は。 「狙ってなんか……ないよ」  と答えた。
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