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俺は走って教室を出た。階段は二段飛ばしで駆け下りる。体が軽く感じた。追い風が吹くように俺の背中は押された。
いつの間にかあだ名で呼んできたクラスメイトの言葉が俺の頭をリフレインする。これしかない。俺の頭は洗脳されたように一つのことでいっぱいになっていた。
なぜ、俺はチャラ男に負けたのか。
それは速さだ。
自転車でバイクより速く帰れるわけがないと決めつけた。だから、俺は諦めを受け入れた。
けど、諦めたくないとずっと心が叫んでる。本当はずっと好きでいたいのだと叫んでいる。
だったら、諦めない方法をとればいい。
『速さで負けた、それが理由で俺は恋に敗北したというのなら』
俺は相棒である自転車にまたがる。長年使い続けたパートナー。コイツなしには帰れない。
毎日一緒だったコイツを信じてやらないでどうすんだ。
残りの時間。俺がやることは一つだった。
「コイツで、バイクに勝ちゃあいいんだろうが……!」
俺はペダルを漕ぐ。ゆっくり進み学校をでた。同時にスマートホンを取出し、ストップウォッチのアプリのダウンロードボタンを押した。
「決めたぞ、俺は」
ダウンロードが終わると同時にアプリが起動する。クラシック調のデザインのストップウォッチが表示された。
「超えてやるよ……。俺と、コイツの限界って奴を……!」
信号が変わると同時に俺の脚は最大馬力でペダルを踏んだ。ずいずい加速する世界に俺は懐かしいものを感じた。
がむしゃらだったあの頃を思い出す。少しでも家に速く帰るために、道の研究、筋肉トレーニングに一生懸命だったあの頃を。
県内№1(自称)と名乗り始めるその前の記憶が蘇る。
人間とは何時だってチャレンジャーだ。彼女が音楽でそうだったように、俺はこんな小さな1位(自称)で満足してはいけない。
だから、俺はまだこの恋を諦めるには早いんだ。
(自称)を消すのは今なんだ。
俺は実に土日を挟んで4日ぶりに彼女の家への帰宅路を駆け抜けた。
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