自転車が止まる。

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「はぁ……はぁ……、……無理じゃね?」  息が上がった。心臓がバクバク騒がしい。見上げる。頂上までの距離はまだ10メートルはあった。本気を出して、これだ。届かない。こんなにも10メートルを長いと思ったことはない。  なにが足りない? 体力? 筋力? どっちもだ。  もしも、もしもこの坂を攻略するために必要なものが他にあるとしたらなんだ? 「気合い……か?」  精神論。俺が大嫌いな言葉だ。不確定すぎて曖昧で。だけど、体力、筋力を補える方法が俺には思いつかなかった。  もう一度、俺は下に降り、助走をつけて坂を上った。さっきより気合いを入れて。とはいってもその方法がよくわからなかったので、とりあえずさっきの倍叫んで、さっきの倍無理やり体を動かした。  結果、残り5メートルまで来た。今日から精神論を信じようと思う。  けど、登り切れてはいない。もういっそ自転車押して走った方がいいんじゃないかと思えた。  自転車の利点は歩行と比べ、楽で早いことである。だが、上り坂に置いてはその限りではない。  だが、俺の選択肢にそんな方法はなかった。  俺がならなければいけないのは『帰宅部自転車部門地方№1』。自転車じゃなくちゃ意味がない。そうでないと彼女を背中に乗せる資格はない。  もう一度だ。  もう一度。  何度だって挑戦するさ。  諦めなければいつかきっと届くんだ。  この坂の残り5メートルだけじゃない。彼女との距離も。  精神論は嫌いじゃない。不可能を可能にする力がそれにはある。逆転するにはもう精神論しかないんだ。  降りては登り、降りては登り。俺はその日、自分では数えきれなくなるほどにその坂を往復した。  家に帰宅した時、親に心配された。俺は初めて真夜中に帰宅した。
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