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◇
「お、俺と勝負しりょ!」
翌日木曜日。
校門前の男女に俺は言った。噛んだ恥ずかしい。
「あ、……浅川先輩?」
きょとんとした顔で彼女は俺を見た。彼女が驚くのも無理はない。突然目の前に現れて、会話を遮られ、謎の敵対心を抱く俺を不思議に思わないわけがない。
「勝負?」
「あ、ああ。そうだ」
「なんの?」
チャラい男は訊く。威圧感を感じた。警戒しているようなそんな目で俺を見ていた。
なんの勝負か。そんなの決まっている。だけど、言葉が続かなかった。
「なんの勝負?」
黙っている俺に彼はもう一度聞いてきた。俺は口を開こうとして、すぐに唇を噛み締めた。
「なに黙ってんの? てか、君誰?」
「えーと、こちら浅川先輩。おっくんも月曜日に会ったと思うんだけど」
「月曜? ああ……」
と彼は俺を睨み言った。
「憶えてねぇ」
「もう! ド忘れ王子!」
「王子って言うな、恥ずい。あと、ド忘れの使い方ちげえだろ」
俺そっちのけで盛り上がっていた。
いや、別に嫌だなんて思わない。だって、慣れっこだ。
いつも俺は蚊帳の外で。いつも外から楽しい景色を眺めるだけで。
中学の時に俺は、ずっとそうやって生きてきた自分が嫌になった。
気付いてしまったんだ。当たり前のように外にいたけど、俺の方が世界からはイレギュラーで。
なんで、俺はあの輪に入れないんだろう。
当たり前と思っていた世界が、嫌になって。
でも、嫌は慣れるんだ。高校に入るころにはもう、蚊帳の外であることを理解したうえで、受け入れた。
帰宅部とかいうありもしない理由を添えて。
だから、彼女達の会話に対して嫌悪感を抱くことなんて、ない。
――と思っていた。
「……速さの勝負」
俺は絞り出すように言葉をひねり出した。
「……えーと、浅川、先輩?」
「ふん。浅川とか言ったな? 小さくてよく聞こえなかった。なんていった?」
「……勝負だ。速さの、勝負……! 俺と、あんたで!」
しどろもどろ、うまく喋れない。彼女は以前不思議そうに俺を見ていた。けど、彼には。
「いいよ、やろうぜ。どっちがお姫様を送るのに相応しいか、受けて立ってやる」
伝わっていた。
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