自転車が走る。

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 俺は県立高校帰宅部自転車部門所属の浅川。自転車での帰宅速度は県内トップクラス(自称)、いや、№1といってもいいだろう。  もうかれこれ2年ほど高校と家の往復をしている。俺の家は普通に帰れば自転車で50分ほどの距離に位置している。  そのため、昔は並み居る猛者達の帰宅スピードには敵わなかった。悔しい想いをしたものだ。自分はまだ帰宅していないのにも関わらず、他のものは既に家に帰り遊んでいる。  なぜだ。なぜ俺は遊べない? その答えは簡単だ。家に帰るのが遅いからだ。  ならば、どうすればいいのか。そんなの決まっている。いち早く家に帰ればいい。そこから1年はひたすら帰り道の研究だった。  近道、道路の混み具合、信号の変わる時間、開かずの踏切の攻略法、そして自転車のコンディション、俺の筋力アップ。  結果、俺は最短の帰り道を最速で帰ることに成功した。15分、それだけあれば家に到着する。実に35分の短縮に成功した。このころには、なんで早く帰宅しようと思ったのかを忘れていた。どうでもいい。  俺はもっと早く帰るための研究で忙しいのだ。遊んでる場合じゃない。そもそも遊ぶ友達なんていなかった。  だから、俺は基本独り言以外で口は開かない。独り言は別に悲しい奴とかじゃなくて、あれだから、喋ってないと喉に違和感憶えちゃうからそのためだから。  というわけで、俺は家族以外と喋ることにはなれていない。だから、この目の前に泣きながら座りこんでいる女の子に、かける言葉が見つからなかった。 「……もう、サイアク。なんで私こんな大事な時期に……グスンっ」 「あ……え、ええと……あの」  俺の最速の帰り道のルートであるこの幅の狭い細道をふさぐようにショートヘアの彼女はいた。じゃ、邪魔だな……。  白いシャツに大きなピンクのリボン、チェック柄のスカート。どうやら、俺と同じ高校の生徒らしい。 「……!」  彼女は俺の存在に気づいたらしく、こちらを鋭い目で見た。 「……なに見てるんですか?」  なんでこの子キレ気味なの? 恐いよ……。 「あ……いや、あの……そこ、帰り、道で」  なんで俺ぎこちないの? 悲しいよ……。 「……ごめんなさい」 「あ……いや、大丈夫です」  なにがだよ俺。
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