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「いつのまに、……こんなところまで!」
声に振り返る暇はない。元気もない。だが、アイツがすぐそこまで来てる。最後のやる気を出すには十分だった。
「うおあぁぁああっ!!」
近づいてくるエンジン音。どんどん音は大きくなる。
バイクだから体力の消耗なんてないだろう。この坂を上るのにも、俺のような苦労はないだろう。
ちくしょう、羨ましい。
俺よりも彼女の近くにいることも、なかよく彼女と話せることも、あだ名で呼びあえることも、全部全部、彼女にまつわる全部が羨ましい。
なんて醜い妬みだろう。だから、俺は一人なんだ。そんなんだから俺は。
だから、今こそ変わるんだ。
足はまだまだ動く。誰よりも、俺が彼女の傍にいるために!
あと一歩。これで坂を上りきる。バイクもまだ俺には追いついてはいない。だが、時間の問題だ。もの一秒で抜かれてしまう。
最後の一歩を、俺は。
「届けえええ!!」
力いっぱい踏み込んだ。
その瞬間。
ペダルが、抵抗を失ったように軽くなった。
「!?」
異常事態に咄嗟にブレーキを握るが、それが良くなかった。
体が前方に投げ出され、背中からコンクリートの地面に叩きつけられた。
なにが起きた? 俺はすぐに自分の自転車を見た。
そこにはチェーンがぶちぎれた自転車が倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
バイクは俺のとなりに止まると、ヘルメットを付けたチャラ男がそう俺に話しかけた。
「自転車が……俺の、自転車……」
無残な姿だった。チェーンだけじゃなく、転倒の衝撃で自転車のかごはひん曲がっていた。ぼろぼろだった。
「浅川先輩!」
彼女の声が聞こえた。俺は震える顔を、彼女に向けた。ヘルメットを脱ごうとする彼女がいた。
「姫! とっとといくぞ」
「けど!」
「お前急いでんだろうが。それに、今慰めるのは、そいつの心に傷をつけるだけだ」
そう彼は言うと、エンジンをふかす。彼女はまだなにか言っているようだけど、だめだ、バイクの音で聞こえない。
結局、なにも聴こえないまま、バイクは俺の目の前から消えて行った。
頬を、温かい液体が伝った。血か、それとも涙かわからない。ただ、悔しくて俺は情けなく叫んでいた。
そして実感していた。俺は敗北した。
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