そして俺が走る。

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 ◇  トイレの窓から外を見た。角度的に校門は見えない。俺がそういう場所を選んだのだ。彼女を遠目から見ることすらはばかられた。  話ってなんだろう? 聞きたくはない。だって、どうせいいことはないんだ。想像してみた。彼女が俺になにを言うのか。 『昨日の怪我、大丈夫ですか?』  いや、第一声はそうだろうがわざわざ呼び出してまで言うことではない。  つまりこうだ。 『もう私に関わらないでください』  言い過ぎじゃない?  でもこれに近しいことを言われるんだろう。そもそも俺とはもう終わった関係だ。なんか元彼っぽく言ってるけど、つまりは俺は用済みだ。  俺の代わりはいる。だから、余計に付き纏うなと、そう言われる、そんな気がした。  嫌なことばかり考えてる。彼女はそんなこと言う子じゃない。だけど、俺は自分を戒めるように、そして自分がこれ以上傷つかないように自分の中だけでこの恋物語を終わらせた。  気づけば夕暮れだった。俺は階段を降り自転車置き場に向かった。しかし、そこにあるはずのものがない。 「あ、そっか。壊したんだった」  自転車はない。いよいよ俺は自分の作り出したアイデンティティすら失った。  歩いて帰る。昨日も同じことを思ったが、この道は長い。自転車の偉大さを思い知る。一歩一歩、確かに前に進んでいるのに、自転車と比べてしまうからだろうか、進めている気がしなかった。いつまでもここで止まっているような感じだった。  俺は何時になったら目的地に着くんだろう。無限に帰宅路が続いてるように思えた。  結局俺はその日、彼女に会うことはなかった。  ◇ 「やっと見つけた」  俺の前で一台のバイクが止まった。そのライダーは見覚えある男だった。 「どうして、ここに?」 「考えたらわかるだろ? 木曜日、君は自転車を壊した。で、修理してもらおうとするだろうな、ってな。で、金曜に直しに行くよりも、暇な土曜に直した方がいいっ君は思う、って思っただけだ。だから、しらみつぶしに探したんだよ。一軒一軒自転車屋を周ってな」  そう、彼の言う通り。俺は自転車屋に来ていた。無論、相棒である自転車の修理のためだ。昨日行かなかったのも彼の言う通り。  だが、俺の質問はその答えを聞きたいのではなかった。 「なんで俺を探す必要が?」
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