そして俺が走る。

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「先輩、もう下ろしてくれて大丈夫ですよ? さすがにこの坂は……」  「いいんだ、これはかたき討ちだ」  道中、彼女の足が悲鳴を上げた。長時間の歩行が彼女の足の傷を開かせてしまったのだ。知った道まで出てこれていたので、彼女を背負ってここまで来た。  この坂は宿敵のあの坂だ。俺の自転車を破壊したあの坂だ。 「かたき討ち? こういう時、リベンジっていうんじゃないですか?」 「大体同じ意味だ、それ」  一歩一歩、彼女を背負ったまま登っていく。実をいうと体力は限界気味だ。なにより女の子といえど、重くて重くて……。  しかし、そんな気持ちじゃ、この坂に勝てないことは俺の名馬が教えてくれた。精神論は大好きだ。俺に不可能を乗り越える力を分けてくれる。 「先輩? 辛くないですか? おりますよ、私!」 「駄目だ! 絶対!」 「でも、でも! 今度は、今度は先輩の体が!」 「壊れない! 俺は今度こそ!」  最後の一歩を踏み出す。叫び声とともに俺は前へ上へ進んだ。心配してくれていた彼女が今度は俺に祝福をプレゼントした。 「すごい! すごいですよ、先輩!」 「いよっしゃあ! どうだ! みたか、坂! 俺の勝ちだあああ!」 「ハイテンションモードの先輩きたー!」  こんな風にバカ騒ぎできるのも彼女がいたからだ。俺はそんな彼女のことが……。  彼女の家の前までやってきた。見慣れた家だった。そこで俺は彼女をゆっくり背中から下ろした。 「ありがとうございます、先輩。やっぱり先輩の背中は乗り心地最高ですね!」 「そりゃどうも。……ねえ、ひとつ聞いてもいいかな?」 「はい?」 「もしかして、土日以外にレッスンのない日とかってあった?」 「あー、やっぱり気付いちゃいました? あはは……ごめんなさい。先輩のこと、本当のアッシーくんみたいに扱って……」  学校がある日、俺は彼女を毎日送っていた。けれど、毎日レッスンがあるとは言っていなかった。 「いいんだ、そんなこと。知っていたとしても、俺は君を家まで届けていた。だから、お願いがある」  俺はもう、間違えた道はとらない。一番の近道を探すのは俺の得意分野。  『好きなのになにもしない』そんなのもうやめだ、だから、俺は踏み出した。
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