自転車が走る。

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「そこ右です」 「あ、はい」  すーっと俺は言われた通りに運転する。 「そこ右です」 「あ、はい」  今度も言われた通りに運転する。あれ? それ回れ右してない? 「あの、家どのへん?」 「……」 「なんで黙ってるの?」 「……私、この前引っ越したばかりで、よくわかんないんです」  ええ……。 「もしかして、この帰り道間違ってるんじゃ?」 「そんなことないです! 私はいつもこの道です!」  回れ右する通学路ってなんなんだよ。 「じゃあ、家の近くに何があるかわかる?」 「んー。コンビニ?」  該当場所多すぎなんですが。 「他は?」 「えーっと、家の近くではありませんが、帰り道にケーキ屋さんがあります」 「名前、わかる?」 「麺屋けぇき」  ラーメン屋くさいんだけどそれ。らぁめんのセンスなんだけど。麺屋って言ってんだけど。 「あ、看板あった」  『麺屋けぇき』の看板を見つけた。ここから100メートル先にあるらしい。 「いきましょう! そこまで行けばちゃんと案内できますよ!」  ちゃんと案内できてない自覚あったんだね。 「あ、はい」  言われた通りまっすぐ麺屋けぇきへ自転車を走らせていった。  ちなみに麺屋けぇきは想像以上にラーメン屋の見た目をしていた。いらっしゃっせー! って聴こえた。 「次はこの踏切です」  目の前に現れた踏切を俺は見覚えがあった。そうだ、県内の踏切のデータを取るためにここまで来たことがある。そして、憶えていることが一つ。 「ここ、開かずの踏切だよな?」 「あかずきん?」  おばあちゃんはどうしてボッチなの? それは学校が終わったらとっとと帰っちゃうからだよ! きゃあ、こわい。  開かずの踏切とは言うが、運が良ければどうということはない。今日はどうやらいい日のようだ。  踏切は上がった。 「次はこの大通りの横断歩道を渡ります」 「あ、はい」  車の通りが激しい。間違っても信号無視なんてできないだろう。そもそも犯罪はよくない。二人乗りダメ絶対。 「そして次に」 「あ、はい」 「この坂を上ります」  それは急な坂道だった。長さは30メートルもないだろうがこの角度、自転車に上るにはずいぶんと骨が折れそうだった。
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