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「ここから歩きましょう!」
「あ、うん」
彼女は言って荷台から飛び降りる。しかし、着地直後左足を抑えてしゃがみ込んだ。この子は怪我してることを忘れていたのだろうか。
「回り道しよう。緩やかな場所があるかもしれない」
「……そうですね」
距離は長いが緩やかな坂がどこかに存在していれば、同じ仕事量でもそちらの方が俺にはいい。スタミナには自信があるのだ。
運の良さは依然継続中らしくその後すぐに緩やかな坂は見つかった。ただ、それを上ると彼女の家から遠ざかる向きにあるらしかった。
「どうしよう……。もう時間が……」
ようやく坂を上りきり平地となったが、時間が迫っているらしい。急がないといけない。
「あ、あの、ここからは平地だけかな?」
「たぶん、そうです」
「わかった。家はどっちの方向だ?」
「左です、あの」
「ん?」
「左をずっとまっすぐです!」
つまり直線。しかも人通りは少ない。間に合うためには最高速。
「わかった。捕まってて」
深呼吸。酸素を体に送る。それが、合図だ。
「3、2、1」
「え?」
「0!」
俺はペダルを踏みしめる。足を下げては上げて、下げては上げて。まるで俺は機関車だ。
いつもより、自転車が重い。スピードが乗り切らない。だけど、涼しい風は俺と彼女を包みこみそして後ろに消えて行った。
その風は今までに味わったことないくらい気持ちのいい風だった。
「なにこれ、速っ!?」
当たり前だ。これは俺の最高速ではない、だが、ただの自転車乗りの域はとっくに超えている。
「あなた、何者なんですか!?」
「ただの帰宅部だ!」
「きたくぶ?」
「ああ、そうだ!!」
どうやら俺は速ければ速くなるほどキャラが変わるタイプらしい。今まで会話しなさすぎて気づかなかった。
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