孤高の少女

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 中島千尋は言語を持たない。  いつだって自分の机を眺めている。  もちろんその机に何かが書かれているわけでも、不思議生物がそこにいるわけでもない(たぶん)。  ひたすら、像になっているのだ。  彼女は誰とも言葉を交わらせることもしなければ、表情という感情を表す言語すらも発しない。まさしく、像。物言わぬ、ただそこにあるだけの物体なのだった。  そんな彼女は、クラスの中で浮いているわけでも、ましてや虐められているわけでもなかった。ごくごく自然にそこにいて、風景と一体になるかのように見事にぴったりと収まっているのだ。  どうして彼女が何もしないのか、僕にはわからない。クラスの誰もわからない。もしかすると、彼女すらも。  彼女に同情したこともあった。あんなにも空気になっていて、さぞかし寂しいことだろう、と。しかし違うのだ、彼女は寂しいという言語すらも持ち合わせていなかった。
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