何でもないような

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玄関のドアが開く音がした。 「結子」  母が帰ってきたのだ。私はノートを乱暴に放り投げて一階へ降りた。  母は私を見るなり両手にぶら下げた買い物袋を床に置き、私の額に手を当てた。 「熱はもう下がったみたいね。じゃあこれから遅れて昼食を食べましょう」  壁にかけられた時計を見ると針はすでに午後三時をさしていた。空腹感はない。朝食の分のエネルギーが消費されていないからだろう。 「作るの手伝うよ」 「いいから寝てなさい。できたら呼ぶから」  母は腕まくりをして買ってきた材料で昼食を作り始めた。仕事帰りの休息の時間を奪ってしまったように感じて、私の中で罪悪感が生まれた。  それに、あのノートに書き込んだことを後悔する。もし母が見たらどんなに悲しむだろう。 やめよう。これっきりにしよう。  私は部屋に戻り、再びノートを手に取った。さっき書いた内容を消そうと消しゴムを片手にページを開いた。 「え……」
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