何でもないような

11/15
前へ
/53ページ
次へ
母は包丁を持ちながら家中を見回った。私は厳重に戸締りを確認する。 「誰もいないじゃない。驚かせないでよ」 クローゼットの中、浴槽の中。隅々まで捜してもいなかった。家中の窓や裏口は全て鍵がかかっていた。 誰かが侵入した形跡もない。 じゃああれは何なのだ。私が無意識に書いたというのか。 「パジャマでうろうろしてないで大人しくしていなさい」  私は胡坐をかいてノートと睨めっこする。 表紙はシンプルで猫のシルエットがワンポイントで描かれ、上品さを醸し出しているが、その辺の文房具屋で売っていそうなノート。何の変哲もない。 しかしこの『こんにちは』を消す気は失せる。 誰かが送ってきた私へのメッセージのように思えてならない。 面白半分で私は返事を書いてみた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加