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母は包丁を持ちながら家中を見回った。私は厳重に戸締りを確認する。
「誰もいないじゃない。驚かせないでよ」
クローゼットの中、浴槽の中。隅々まで捜してもいなかった。家中の窓や裏口は全て鍵がかかっていた。
誰かが侵入した形跡もない。
じゃああれは何なのだ。私が無意識に書いたというのか。
「パジャマでうろうろしてないで大人しくしていなさい」
私は胡坐をかいてノートと睨めっこする。
表紙はシンプルで猫のシルエットがワンポイントで描かれ、上品さを醸し出しているが、その辺の文房具屋で売っていそうなノート。何の変哲もない。
しかしこの『こんにちは』を消す気は失せる。
誰かが送ってきた私へのメッセージのように思えてならない。
面白半分で私は返事を書いてみた。
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