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離職のあいさつをするために、僕はラクルの社長室にやってきた。
喜多嶋社長に向かって、深々と頭を下げる。
岡野「すみません。こんな形になって」
頭を上げると、喜多嶋社長はニヤリと笑みを浮かべていた。
喜多嶋「お前が、あいつの会社に行けば、こっちはやりとりしやすいから、いいんだ」
鷲見「俺が落ちつかないみたいに言うな」
喜多嶋「実際、何度も連絡が取れなくなる男だろ?が、こうなれば、岡野にさえ連絡がつけば、お前が捕まえられる」
鷲見「確かにな」
喜多嶋「頼んだぞ、岡野」
岡野「は、はいっ!」
(なんか、責任重大かも……)
喜多嶋「岸っ」
岸「はい。すぐに手続きに入ります」
岡野「お願いします」
岸「はー。すごい荷物を背負いこんだようなものだな」
岡野「えっ」
岸「ま、それも運命だろう?鷲見慶っていう運命につかまったと思ってあきらめろ」
岡野「大丈夫です。僕の運命なら、すごく幸運なことだから」
岸「…………」
喜多嶋「岡野、それは立派なのろけだ」
岡野「あっ」
鷲見「ふっ。いい傾向だな」
喜多嶋「まったく、あの純粋だった岡野が、すっかり鷲見に毒されているな」
岡野「すみません」
喜多嶋「いや、頼もしい限りだよ」
余裕の笑みで喜多嶋社長は僕を見た。
鷲見「そうだ。あまりヒロをいじめるな」
喜多嶋「お前こそ、うちの大切な社員に負担をかけるなよ」
鷲見「もう、うちのだ」
喜多嶋「いや、手続きが終わるまでは、うちのだろ?」
大きな男ふたりが牽制しあっている。
……と言うよりは、じゃれあっているようにも見える。
岡野(やっぱり、仲がいいよね。対等な感じがうらやましいな。僕もいつか、あんな風になりたい……そのためには、一人前の男になれるように頑張らないとっ)
ひそかに決心。
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