第10話

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離職のあいさつをするために、僕はラクルの社長室にやってきた。 喜多嶋社長に向かって、深々と頭を下げる。 岡野「すみません。こんな形になって」 頭を上げると、喜多嶋社長はニヤリと笑みを浮かべていた。 喜多嶋「お前が、あいつの会社に行けば、こっちはやりとりしやすいから、いいんだ」 鷲見「俺が落ちつかないみたいに言うな」 喜多嶋「実際、何度も連絡が取れなくなる男だろ?が、こうなれば、岡野にさえ連絡がつけば、お前が捕まえられる」 鷲見「確かにな」 喜多嶋「頼んだぞ、岡野」 岡野「は、はいっ!」 (なんか、責任重大かも……) 喜多嶋「岸っ」 岸「はい。すぐに手続きに入ります」 岡野「お願いします」 岸「はー。すごい荷物を背負いこんだようなものだな」 岡野「えっ」 岸「ま、それも運命だろう?鷲見慶っていう運命につかまったと思ってあきらめろ」 岡野「大丈夫です。僕の運命なら、すごく幸運なことだから」 岸「…………」 喜多嶋「岡野、それは立派なのろけだ」 岡野「あっ」 鷲見「ふっ。いい傾向だな」 喜多嶋「まったく、あの純粋だった岡野が、すっかり鷲見に毒されているな」 岡野「すみません」 喜多嶋「いや、頼もしい限りだよ」 余裕の笑みで喜多嶋社長は僕を見た。 鷲見「そうだ。あまりヒロをいじめるな」 喜多嶋「お前こそ、うちの大切な社員に負担をかけるなよ」 鷲見「もう、うちのだ」 喜多嶋「いや、手続きが終わるまでは、うちのだろ?」 大きな男ふたりが牽制しあっている。 ……と言うよりは、じゃれあっているようにも見える。 岡野(やっぱり、仲がいいよね。対等な感じがうらやましいな。僕もいつか、あんな風になりたい……そのためには、一人前の男になれるように頑張らないとっ) ひそかに決心。
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