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しかし振り向いたそこには黒いスーツを着た男が立っていた。
どう見ても病院関係者では無い事は健一にもわかった。
「大石健一さんですね…」
健一は力なく頷いた。
「あなた、余命宣告されましたね」
健一は顔を上げてその男を見た。
「いえいえ。臓器提供とか保険会社の者ではありませんよ」
そう言うと男は名刺入れを出し、一枚の名刺を健一に渡した。
健一はゆっくりとその名刺を受取り、その男の顔を見た。
「少しお話があるのですが…」
「はぁ…」
「よろしければ少し…お時間を頂けませんでしょうか」
男は腕時計を見ながら健一にそう言う。
「はぁ…」
健一はその男の顔を見たまま、短く返事をした。
男は健一に微笑んで、その場で手を挙げた。
すると高級車が健一とその男の前に滑りこむ様にやってきた。
健一が一度も乗った事のない様な高級車だった。
男は後部座席のドアを開ける。
「さぁ、どうぞ。すぐそこですので…」
健一は躊躇いながらその車に乗り込んだ。
そして車はゆっくりと走り出した。
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