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健一は紙包みを見つめたまま動かなかった。
確かに、夢の様な薬である。
しかも、余命宣告されたばかりの人間にとっては、すぐにでも飛びつきたくなる薬だろう。
健一の頭の中では、倉田の言葉や余命宣告をした若い医者の言葉がランダムに蘇っていた。
そして、ふと我に返った。
どのくらい時間が経ったのか、わからなかった。
「その薬を私に飲んでみないか…と言う事ですか」
健一は沈黙を打ち破った。
「はい。その通りです。私どもも誰にでもお勧めしている訳ではありません。その激痛に耐えうるであろうと思う人にだけこの様にお勧めしています。私どもも、ビジネスですからね」
「ビジネス…ですか…」
健一は倉田を見て静かに言った。
「ええ。貴重な薬ですので…」
倉田はそう言うと満面の笑みを浮かべた。
健一はその倉田の顔を見て、一気に緊張が解けた。
「話はわかりました」
そう言うとソファに深く座り直した。
「正直、余命宣告された私には良いお話です。藁にも縋りたい気持ちでいっぱいです。たとえこの薬を飲んで激痛に耐え切れず命を落とそうとも死ぬのを待つよりはマシです」
倉田はそれを聞いて肩の力を抜いて、ゆっくりとソファに沈んだ。
「では商談成立と言ったところですか…」
「そうですね。しかし…」
「はい」
「この薬…萬能丹のお値段は…」
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