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「あの日、祭承は儂の家を訪ね、提灯の火をくれと言ってきた。儂は祭承にもう遅いので泊まれと言ったのだが、あいつは自分を待っている人のために、夜道を行くと言って聞かなかったのだ。それも運命じゃの…。だからこそ、祭承は今も生きておるだが…」
老人はニコニコと微笑み、空を見た。
「そうですか…。老師、我が主人がお世話になりました」
魏粛はそう言うとその老人に頭を下げた。
「いやいや。彼が今生きているのは、彼自身の運命だ。生きなければならない、この先の歴史に必要な人物だったからだ」
二人は黙って楠の木漏れ日を見ていた。
「どうやら、始皇帝、政もあの薬を飲んだ様じゃが、耐え切れなかったのだろうな…」
老人は魏粛にそう言う。
「始皇帝は飲んだのですね…。萬能丹を…」
「どうやら、江南で手に入れた様だ。もちろん祭承の元から出た事は明らかなのだが…」
李門は始皇帝に萬能丹を渡したのだ。
その萬能丹を飲んだ始皇帝は命を落とした。
それも運命なのだ。
生きるも運命、死ぬも運命…。
「どうやら、すべて知っておる様じゃの」
老人はそう言うと再び魏粛を見た。
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