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張良は一人、行燈を片手に夜の咸陽城の宝物庫に立っていた。
劉邦は一切の略奪を禁止していたため、咸陽城の宝物庫も秦国家の時のまま、すべてが整然と並んでいた。
その豪華絢爛な宝物庫。
始皇帝の巡行で各地より献上されたモノ、外国より献上されたモノなど数千を数える程並んでいた。
一切の略奪を禁ず。
その劉邦の言葉は、張良にも例外ではない。
張良は行燈を左右に振りながら、薄暗い部屋を照らし何かを探していた。
金銀財宝には目も繰れず、必死に何かを探していた。
薄暗い部屋の奥にある棚の中に、一つの革の袋を見つけた。
張良はその袋を手に取る。
その袋に下げてある小さな竹簡には「萬能丹」と書かれてあった。
「あった…」
張良は少年の様に顔をほころばせて喜んだ。
そしてその袋を持って、宝物庫を出た。
「萬能丹」
江南の街で、始皇帝に献上された不老不死の妙薬である。
張良はその薬を探していたのだ。
咸陽城の廊下を歩き、書物庫へ向かった。
張良は書物庫の中に置いた木簡を詰め込んだ箱の中に、その「萬能丹」の袋を入れた。
「これだけは…。この萬能丹だけは、絶対に項羽に渡してはならない…」
張良はそう呟いて書物庫の扉を閉じた。
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