第四章 項羽と劉邦

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張良は一人、行燈を片手に夜の咸陽城の宝物庫に立っていた。 劉邦は一切の略奪を禁止していたため、咸陽城の宝物庫も秦国家の時のまま、すべてが整然と並んでいた。 その豪華絢爛な宝物庫。 始皇帝の巡行で各地より献上されたモノ、外国より献上されたモノなど数千を数える程並んでいた。 一切の略奪を禁ず。 その劉邦の言葉は、張良にも例外ではない。 張良は行燈を左右に振りながら、薄暗い部屋を照らし何かを探していた。 金銀財宝には目も繰れず、必死に何かを探していた。 薄暗い部屋の奥にある棚の中に、一つの革の袋を見つけた。 張良はその袋を手に取る。 その袋に下げてある小さな竹簡には「萬能丹」と書かれてあった。 「あった…」 張良は少年の様に顔をほころばせて喜んだ。 そしてその袋を持って、宝物庫を出た。 「萬能丹」 江南の街で、始皇帝に献上された不老不死の妙薬である。 張良はその薬を探していたのだ。 咸陽城の廊下を歩き、書物庫へ向かった。 張良は書物庫の中に置いた木簡を詰め込んだ箱の中に、その「萬能丹」の袋を入れた。 「これだけは…。この萬能丹だけは、絶対に項羽に渡してはならない…」 張良はそう呟いて書物庫の扉を閉じた。
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