第四章 項羽と劉邦

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劉邦は百騎程の手勢を率いて、項羽軍が布陣する鴻門へと向かった。 そこに布陣する項羽軍は四十万とも五十万とも言われた。 劉邦はその軍勢の中を堂々と進んで行った。 劉邦のすぐ後ろには張良と蕭何が並び馬を進めていた。 その後ろに曹参、そして樊かい(カイは口に會)、夏侯嬰が続く。 「劉将軍は斬られるのか…」 樊かいは夏侯嬰にそう聞いた。 「わからん。斬られたら俺たちが、命に代えても項王の首級を取るだけよ」 夏侯嬰は樊かいに微笑みかけた。 「それに見ろ、劉将軍があれだけ堂々としているのだ。俺たちがビビってどうする」 「違ぇねぇ…」 樊かいも声を出して笑った。 「誰一人、臆してない様ですな…」 蕭何は張良を見た。 「その様ですね。これもひとえに劉将軍の人徳でしょうな…」 張良は微笑んだ。 「劉将軍には何の計算もないのだよ。彼は自分の、思うがままに動いているだけだ。元々、小細工など出来る人では無いですし…。すべては劉将軍にお任せするしかないでしょう」 蕭何は劉邦が沛県で、ゴロツキの様に過ごしていた頃から彼を知っている。 劉邦は昔から、思う様に行動してきた。 その行動が多くの人々を惹きつけ、劉邦の名を広めてきた事は間違いない。 それを蕭何は一番理解していた。 前を歩く劉邦の背中を見ながら蕭何は微笑んだ。 あの頃と何一つ変わらないお方だ…。 鴻門の楚の軍勢は壮大だった。 項羽は各地の反対勢力を壊滅させ、吸収していった。 その軍勢がこの鴻門に集結しているのだ。 そしてその五十万の軍勢のすべてが、今日の劉邦次第で敵に回る。 劉邦はその軍勢に身震いした。 「こんな軍相手に勝てる訳ないじゃないか…。なぁ、張良。そうは思わんか…」 劉邦は周囲をゆっくり見渡した。 劉邦は項羽を心から恐れていた。 劉邦にとってこの世で一番恐ろしいモノだと言っても過言ではないだろう…。 その項羽に今から会い、弁明する。 劉邦は手の震えを隠す様に手綱を強く握り直した。 項羽軍が準備した幕舎が見えてきた。 劉邦は手を挙げて自分の軍を停めた。
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