第四章 項羽と劉邦

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劉邦が馬から下りると、夏侯嬰も急いで自分の馬を下り、劉邦の馬の手綱を取った。 「とうとう、地獄に着いちまったな…」 劉邦はそう言うと、項羽の幕舎の周囲にいる人々を見た。 そこには項羽が旗揚げした時に自分と一緒に並んでいた顔ぶれが多くあった。 その目はあの時と違い、劉邦を敵と言わんばかりに睨んでいる。 項羽も劉邦も同じ楚軍なのだ。 しかし劉邦を睨むその目は、かつての秦軍を睨む目と同じだった。 劉邦の前に、項羽の叔父である項伯がやって来て一礼した。 前もって張良に項羽軍の情報を流した張本人だった。 この項伯の働きで、この鴻門での会見が実現したのだった。 「劉邦将軍ですな…」 「いかにも。楚軍の劉邦でござる」 劉邦は自分が楚軍の一員である事を強調し、項伯に頭を下げた。 「あの幕舎の中で待たれよ。項王も間もなく参られる…」 そう言うと歩き出した。 項伯の後を劉邦、そして張良、蕭何が続いて歩く。 項伯は幕舎の手前で立ち止まり振り返った。 「申し訳ない。劉将軍の従事の方は…」 劉邦に付き添う者を見渡し、 「張良殿だけでお願いしたい」 従事の者たちはざわついた。 「承知致しました…」 そのざわめきを止めたのは張良の声だった。 「蕭何殿。後を頼みます。くれぐれも騒ぎを起こさない様に…」 張良はそう言うと、劉邦の後ろを歩き出した。
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