第四章 項羽と劉邦

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二人は幕舎の入口を潜り、中に入る。 中には項羽が座るであろう椅子だけが一つ置かれていた。 会見の場所としては大変失礼なモノだった。 あくまで劉邦は項羽の配下。 これも項羽の軍師、范増の演出なのだろう。 しかし劉邦は躊躇せずに、幕舎の中心部に置かれた椅子の前に平伏した。 「劉将軍…」 「子房…静かにせい。俺に任せておけ…」 劉邦はそう言うと床に頭を付けた。 そしてそのまま劉邦は動かなかった。 張良はその劉邦の後ろに同じ様に座った。 しばらくすると、幕舎の入口から項羽と范増が入ってきた。 その時間は、劉邦と張良には途轍もなく長い時間に感じられた…。 范増は項羽に耳打ちした。 「項王。わかっておられますな…。この劉邦だけは誅しておかねば…」 「くどいぞ、亜父。この男がどれだけの男か、それは儂が儂の目で見極める…」 そう言うと項羽は歩き出し、劉邦の横で立ち止まった。 范増もその項羽と一緒に立ち止まる。 劉邦は生きた心地がしなかった。 その威圧感に身体は硬直し震えていた。 項羽はそれを見て、細い目でニヤリと笑った。 そして劉邦の前に立った。
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