第四章 項羽と劉邦

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「劉邦。貴様の函谷関での所業、どういう事か説明してみろ」 項羽は椅子に座り、腕を組んで劉邦を睨んだ。 劉邦は頭を床に擦りつけたまま、 「私は、今回の作戦、搦め手として南より武関へ回り、たまたま大将軍より先に関中へ入りました。そしてその関中にて大将軍の到着を待っておりました。函谷関を固く閉ざしたのは、流族などから関中を守るためで、他意はございません」 劉邦はそう言った。 「そなたの軍の曹無傷という者から進言があった…。劉邦は関中王を名乗り、自らが王となるつもりであるとな…。そなたはその曹無傷の言葉は讒言であると申すか…」 劉邦は曹無傷が項羽軍に、その様な讒言を流した事を初めて知った。 「それは曹無傷の思い違いかもしれません。ただ私は大将軍の前で嘘を申す気は塵芥程もございません」 項羽は劉邦の言葉を、微動だにせず聞いていた。 「ならば、何故三代皇帝の子嬰を誅する事なく許したのだ。奴は我が楚にとっては、絶対に許す事の出来ぬ秦の皇帝であろう。お主は我が楚、いや…楚ばかりではない。その同盟国も子嬰の治める秦に、ことごとく蹂躙されたのだ。その皇帝、子嬰を許すとは重罪に値するとは思わぬか」 項羽の声は、かつての始皇帝の声の様に腹に響く様な声だった。 平伏す劉邦。 その後ろに控える張良も、その威圧感に恐れ戦いていた。
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