第四章 項羽と劉邦

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「劉邦。いや…劉将軍。この度は大義であった。楚の再興を願う者たち全員の働きにより、秦は滅んだ。そなたも楚人、同郷の士だ」 項羽はゆっくりと立ち上がり劉邦にそう言った。 それを幕舎の入口で聞いていた項伯は、劉邦に駆け寄った。 「さあ、劉将軍。お手を上げて下され。項王はそなたの思い、しかと受け入れられた」 項伯は劉邦を立たせた。 それに続いて張良も立ち上がった。 「有難き幸せにございます…」 劉邦は今一度、項羽に頭を下げた。 項羽はその劉邦を見て、声を出して笑った。 「共に戦った同郷の士じゃ。戦友でこそあれ、何を遠慮する事があろうか…。あちらに宴の準備が出来てござる。今日は大いに飲もう」 項羽は笑いながら幕舎を出て行った。 何という事だ…。 とうとう項羽は劉邦を誅する事が出来なかった。 いずれ、この劉邦が、項王にとって最大の敵となり、劉邦に平伏す日が参ろう…。 范増は幕舎を出て行く劉邦の後ろ姿を見てそう思った。
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