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「こら六承、何をしているのだ」
祭傳は大きな声を出した。
六承は引き出しから出した薬を桑折に詰めているところだったが、父の祭傳の声で驚き身体を震わせた。
「はい。すみません。今準備をしているところです」
「お前はいつまで経っても仕事が遅いな。そんな事じゃ兄たちに追いつけんぞ」
祭傳の大きな声は街中で有名だった。
毎日罵声に似た声が祭傳の店から聞こえていた。
この祭傳は特に、六男の六承には厳しかった。
祭傳は咸陽の街にある薬商。
夫人は四人。
六承は第一夫人の息子で、祭傳は最も可愛がり、その愛の鞭とも言える罵声は止む事は無かった。
「早く出発しないか。今日中に帰れんぞ」
そう言うと祭傳は奥の部屋へ入り、激しい音を立てて戸を閉めた。
「わかっていますよ…」
六承は祭傳に聞こえない様に小さな声でそう言うと桑折に蓋をして紐を通して背負った。
祭傳には子どもが八人いた。
長男の祭石を始め、次男祭毛、三男祭伯、長女祭麗、次女祭華、四男祭嘉、五男祭越、そして六男の祭承、六番目の息子だから六承と呼ばれていた。
長男の祭石と次男の祭毛は既に祭傳に店を任され、他の県で立派に薬商を営んでいた。
三男の祭伯と四男の祭嘉は祭傳の店で行商を手伝い、五男の祭越は薬作りを勉強している。
一番幼い六承は十五歳の誕生日を迎えた日から祭傳の店を手伝っている。
これも一人前の薬商になるための修行だと祭傳は言う。
六承は桑折を背負い、草鞋を履いた。
「行って参ります」
店の入り口でそう言うと、颯爽と歩き出した。
今日は咸陽の西にある町に行商へ行く予定になっていた。
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