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同じ事が項羽に出来るだろうか。
范増は並んで座る劉邦と項羽を見た。
項羽には劉邦程の器はない。
范増はそう思い、そして、不気味に微笑んだ。
項王。
この劉邦、今殺さなければ、この先、大いなる災いとなりましょう。
范増は心の中でそう呟いた。
そして、腰に下げた玉けつ(ケツは王に夬)を手に取り、チリンチリンと数回鳴らした。
金で出来たその玉けつは澄んだ高い音を奏でた。
項羽、張良にもその音色は聞こえた。
けつの音。
張良はその音に気がつき、焦った。
「けつ」は「決」に通じ、この時代、密かに決断を迫る時に使われていたのだ。
范増は項羽に劉邦を殺す決断を迫っている…。
張良は焦り、劉邦と項羽を見た。
そして項羽もその音色を聞き、范増をちらと見た。
しかしそれだけで項羽は動かない。
「劉将軍…」
項羽は静かに、そして響く声でそう言った。
劉邦は手に持つ盃を置いて、項羽を見た。
張良は、思わず席から立ち上がった。
まずい…。
斬られる…。
そう思ったのだった。
立ち上がった張良を項羽は細い目で見た。
その目の威圧感はただ者ではない。
その目に睨まれると動けない事を、張良は実感した 。
しかし、その項羽の目の威圧感は次の瞬間に溶けて無くなった様だった。
「先程、お主が見せた涙。我が叔父項梁のために流してくれた涙と同じであった。儂はお主の涙を信じる。これからも我らの楚のために共に尽してくれ…」
項羽はそう言うと劉邦の手を握った。
張良はその様子を見て胸を撫で下ろした。
しかし、范増は違った。
その項羽と劉邦を見て自分の卓を蹴り、幕舎を出て行った。
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