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「俺は、劉将軍の家臣で樊かいと申します。沛にて劉将軍が沛公となられる以前から将軍の傍におります。劉将軍には項王の様に武に長けたところも無く、范増殿の様に智に長けたところもございません。ただ俺は、この劉将軍が好きで傍にいるのです。そして私は、武に長けた項王を尊敬し、項王の様に強くなりたいと思い、今まで楚のために働いて参りました。しかし、項王は楚のために働いてきた我らにこの様な仕打ちを成されるのですか。これでは始皇帝と同じではありませぬか。このままでは死んでも死に切れませぬ…」
樊かいはそう言った。
「ええい下郎。誰かこ奴を斬れ」
范増は大声で樊かいを斬るように命令した。
「うるさい。俺は斬られるのを覚悟して項王にお願いに来たのだ。話が終わればいつでも斬られてやる。それまで黙って見ていろ」
樊かいはそう言うと脚を崩し、胡坐をかいた。
「俺の首で良ければいつでもくれてやるわ」
そう言うと腕を組んで目を閉じた。
劉邦はその樊かいをただ茫然と見ていた。
張良も樊かいの後ろで立ったまま、動かなかった。
周囲は静まり返る。
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