第四章 項羽と劉邦

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「素晴らしい。素晴らしい家臣をお持ちですな…劉邦殿」 静まり返る中で、項羽は盃を卓に置き、音を立てて手を叩いた。 「はあ…」 劉邦も斬られるのを覚悟していた。 しかしその項羽の言葉で全身から一気に力が抜けた。 「まさに壮士。素晴らしい家臣だ。この樊かいとやら、お主のためなら命も投げ出すと言う。素晴らしい。実に素晴らしい。儂はお主を羨ましく思う」 項羽はそう何度も繰り返した。 劉邦は椅子を脇に避け、床に平伏した。 「項王。本日は誠に申し訳ありませんでした。非礼の数々お許し下さい」 劉邦は項羽に頭を下げた。 その様子を見て、張良も同じ様に床に平伏した。 「いや、良い。儂は今日は実に愉快だ。そなたの涙、張良殿の舞い、そしてこの壮士。それに免じて、今回の事は一切咎めはせん」 項羽は自分も席を立ち、劉邦の肩を叩いた。 「早く覇上の陣へ戻り、家臣の者を安心させてやれ…。劉将軍よ」 項羽は高笑いした。
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