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宴は終わり、劉邦たちは無事に覇上の陣へ帰ってきた。
劉邦は陣に着くなり、曹無傷を呼び出すが、既に陣にはいなかった。
劉邦は即座に、多くの家臣を走らせ曹無傷を探した。
曹無傷は古くから劉邦に従ってきた曹参の縁者にあたる。
劉邦は曹参にはそれを命じす、密かに自分の幕舎に呼んだ。
「すまん、曹参。曹無傷を斬らねばならん」
劉邦は曹参に頭を下げた。
曹参は黙っていた。
その沈黙は長かった。
曹参と劉邦、そして蕭何、張良がその場にいた。
「いえ…将軍。この場合、私も同罪。一緒に斬首されても文句を言えぬ立場でございます。劉将軍がこの先、天下を望むのであれば、その様に軍律を定め、曹無傷をお斬り下さい。もし、劉将軍の命がございましたら、私が自ら、曹無傷を斬りましょう」
曹参は劉邦を真っ直ぐに見ていた。
その目は一種の決意に満ちた目だった。
「そんな事が出来る訳ないじゃないか…」
劉邦は歩み寄り曹参に言った。
「いえ。劉将軍。ここは軍です。昔の様なゴロツキの集まりではありません。決まりを定め、配下の者を治めなければならないのです。是非、曹無傷を斬る役目、私に命じて下さい。それで将軍の面目が保てるのであれば…」
曹参は再び頭を下げた。
「曹参殿…」
張良も歩み寄り曹参に声をかけた。
「わかった…ではこうしよう。曹無傷を見つけ次第、誰がその役目を担うか申しつける」
劉邦はそう言い放つと、曹参に背を向けた。
その場にいた張良も蕭何も目を伏せ、何も言わなかった。
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