第四章 項羽と劉邦

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魏粛と松石は、咸陽の酒場を出て、二人で城門へ向かって歩いていた。 「どうやら項羽は、劉邦を咎める事は無かった様ですな…」 松石はほろ酔いで、少しフラフラと歩く。 「ああ。しかし、どちらにしても近日中に項羽の軍勢はこの咸陽になだれ込む。これから本当の占領が行われる事になります…。松石殿も早々に咸陽を離れられるが良かろう」 魏粛は松石に微笑んだ。 「魏粛殿は如何なされるおつもりで…」 「項羽が天下を取れる器なのか、それを私はこの目で見たいのです。先に入城した劉邦は見事でした。本当に項羽が劉邦以上の男なのか。自分のこの目で見てみたいのです」 魏粛は澄んだ星空を眺めた。 「危険ですよ…。今度は本当にこの咸陽は蹂躙されるでしょう…」 松石も空を見た。 「私には守るモノなどありません。自分の身だけ守れば良いのであればなんて事はない。大丈夫ですよ」 魏粛は松石を見て微笑んだ。 「そうですか…。では又、その話を魏粛殿と出来る日を楽しみにしております」 松石もそう言うと微笑んだ。 普段夜は閉ざされている咸陽の城門も、今は夜も開かれていた。 占領軍がいつでも出入り出来る様にという事だった。 魏粛と松石は城門のところまでやって来た。 「それでは松石殿。気を付けて下さい」 魏粛はそう言うと松石に小さく頭を下げた。 「はい、魏粛殿も…。小生も落ち着いた頃に戻ろうと思っておりますので…」 松石は頭を下げて歩き出した。 その時だった。 「どけどけ。下がれ下郎」 そう言う声が魏粛の後ろから聞こえた。 魏粛は振り返り、その声の方を見た。 一頭の馬がものすごい速さで城門へ向けて走って来る。 道行く人々は疎らだったが、それでもその人々をも跳ね飛ばす様な勢いで馬は走って来た。 魏粛は道の中央に佇む松石を見た。 酔いが回った松石には、その馬を避ける事が出来ないと思い、魏粛は咄嗟に傍に有った桶にささった柄杓を取り、走って来る馬の脚元に投げた。 柄杓は馬の脚に絡まり、馬は転倒し、その馬に乗っていた男は道に投げ出された。
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