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六承の頭には西の町の住人の情報がすべて詰まっている。
姚ばあさんは先週から足が痛いと言っていたので、痛み止めの膏薬を。
琳ばあさんは水あたりを起こしているので、下痢止めを。
といった感じで一人一人に合う薬を桑折に詰めていたのだ。
だから六承は毎日持って出た薬を完全に売り切って帰ってくる。
それを祭傳は知っていた。六承の商いの才能を見抜いていたのだった。
六承は足早に咸陽の街を抜けた。
西の町まで六承の足で約三時間の距離。
町で薬を売って帰ると夜になるだろう。
それも六承は計算していた。
西の町の住人も六承が薬を持ってやって来るのを待っている。
六承は人に愛される商人として既に人々に認められていた。
腰には店で雇っている飯炊きが作った弁当が下がっていた。
このまま行くと、昼時にちょうど西の町に着く。
昼飯時は畑仕事を休んでいる人々のところを回る。
その後は商いを終えた商人の家を回る。
その間に六承は昼飯を食うのだ。
毎日行く町は違うが同じ様に計算して無駄なく行商していた。
「六承。今日は西の町かい」
町外れで畑仕事をする男に声をかけられた。
「ええ。今日は西の町です」
六承も大声で手を振りながらそう答える。
「うちのカミさんが腹の調子が悪いって言っているのだ。また薬を届けてくれ」
「わかりました。今晩にでも届けますよ」
そう言って足早に過ぎて行った。
六承は咸陽の街の人にも好かれていた。
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