第四章 項羽と劉邦

48/53
前へ
/368ページ
次へ
張良と魏粛は幕舎の中で、劉邦が来るのを待っていた。 「魏粛殿。とう城で劉将軍に会われましたね」 張良は横に並んだ魏粛に聞いた。 「はい。声をかけて頂きました」 魏粛は張良の顔を見る事も無く、真っ直ぐに正面を見据えていた。 魏粛はとう城で劉邦に会った時、この様な機会がやってくる事を感じていた。 「あなたには劉将軍はどう映りますか」 「どう…と、おっしゃいますと…」 魏粛は張良の横顔を見た。 「将軍に天下を取る事が出来るでしょうか」 張良はそう言うと強い視線で魏粛を見た。 「それはどういう事なのでしょう…」 張良は微笑んで顔を伏せた。 「私は、秦が滅んだ後に、楚が再び建つとは思っておりません。その再び訪れる乱世を治めた者が新しい国家を作る。そう考えているのです。もちろん今は、楚の懐王の元にという大義名分は出来ております。しかし、そんなモノは脆いモノです。秦が滅んだ瞬間に…懐王も廃されるでしょう。項羽はそういう男です…」 張良の言葉を、魏粛は瞬きもせず聞いた。
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加