第一章 紅雀と青雀

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六承は街を出て歩くのが好きだった。 そして人々と話すのが好きだった。 六承に学問を教えてくれた恩師、慶呈の口癖は、 「自然はお前の恩師だ。人々はお前の恩師だ。川の流れや息吹く緑を、ただ綺麗だと感じる。それも良いだろう。しかし、それらは四季を教え、自然の摂理を教えてくれる無二のモノでもある。人に聞いた事と、自分の目で見た事…どちらが自分のためになるか。それは考えずともわかるだろう」 いつも六承にそう言っていた。 いつか六承はその慶呈に聞いた事があった。 「人は生きるために食い、眠り、そしてそのために働きます。しかし、どの様な人にも、最後には死が待っています。結局人は死ぬために生きているのでしょうか」 慶呈は十に満たない子どもの六承がそう聞いた事を驚いたと言う。 そして慶呈は、 「人は無から生まれ、無に帰るのだ」 ただそれだけを答えたそうだ。 六承はその言葉に礼を一言言っただけだった。 六承は初夏の道をただひたすら歩いた。 その道はただ真っ直ぐと伸びていて、咸陽へ行商に行く人々と度々六承はすれ違う。 この数年、南の地域で続く不作のせいで、行商人は咸陽のある北の地域に流れていた。 そのために咸陽周辺の地域は比較的経済状態は良かった。 人口はどんどん増え、周囲にある小さな村々にも人がどんどん移り住んでいた。 その恩恵で、祭傳の様な薬屋は裕福になっていった。 六承はこの仕事を始めたばかりだったが…。
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