第四章 項羽と劉邦

49/53
前へ
/368ページ
次へ
「私は江南の街を出て、色々な人物を見てきました。項羽、英布、彭越、そして劉将軍。それぞれに長けているモノを持っておられます。そして私は思うのです…。秦帝国が滅んだ後、必要な力とは何なのか…。それを考えると、次の時代が必要とするモノを持っている王。そう…王としての器、私はそれが劉将軍にはあると思います」 魏粛は目を閉じて言った。 張良は魏粛を見て微笑んだ。 その時、幕舎の入口で声がした。 「魏粛と言ったな…」 その声に二人は顔を上げた。 幕舎の入口には劉邦が立っていたのだ。 劉邦は足早に入って来て魏粛の前に立った。 そして腕を組んだ。 張良と魏粛は頭を下げた。 「顔を上げよ」 劉邦のその声に、魏粛はゆっくりと頭を上げた。 そして劉邦の目を見た。 「魏粛と申します…」 魏粛は声を小さく震わせながら言った。 劉邦に項羽の様な恐怖に似た威圧感はない。 しかし、この男は一回りも二回りも大きく見える何かを持っている。 魏粛は劉邦に改めてそう感じた。 「俺には王の器があるのか」 劉邦は魏粛の前で胡坐をかき、地面にそのまま座りこんだ。 それを見て、魏粛は自分の椅子を横にずらし、自らも地面に平伏した。 「よい。お主は客人だ。椅子に座られよ」 劉邦はそう言うと、魏粛が横にずらした椅子を、魏粛の前に置いた。
/368ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加