第四章 項羽と劉邦

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覇上とは、覇水の畔、その上流にある平原の事をそう呼んだ。 何も無い広い平原で、軍の野営のために、この時代にはよく使われていた。 そこに今、劉邦軍は陣を構えている。 劉邦はその陣の中を颯爽と歩いて行った。 覇水の畔に一人座っている曹参が見えた。 「曹参」 劉邦は歩きながら曹参を大声で呼んだ。 曹参も気づき、座っていた石から立ち上がった。 「将軍…」 劉邦は曹参の前で止まり、曹参の肩を叩いた。 この曹参は今朝早くに、項羽に讒言状を送った曹無傷を斬首したばかりだった。 同族の処刑を曹参にさせた劉邦。 これは曹参のために命じた事だった。 「嫌な思いをさせたな…。すまなかった」 劉邦は曹参に頭を下げた。 「そんな…。将軍。やめて下さい。本来ならば私も罰せられてもおかしくない立場です。それを私のために…」 曹参も察していたのだ。 「お前は沛にいた頃、この俺を何度も助けてくれた。しかし、俺はまだ、そのお前の恩に報いていない」 劉邦は流れる覇水を見て腕を組んだ。
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