第四章 項羽と劉邦

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「魏粛よ…」 魏粛は少し足早に劉邦の横に並んだ。 「はい」 劉邦は魏粛の顔を見て、 「俺は冷酷な男か」 そう聞いた。 魏粛は正面を力強く睨む様に見た。 「いえ…。正しいご判断だと思います。これで曹参殿は一族の罪の意識を背負わずに、これからも将軍に忠誠を誓う事でしょう…」 魏粛のその言葉に劉邦も正面を向いた。 「そうか…。俺は正しいのだな…」 「はい…」 魏粛はそう答えて頭を下げた。 「それならいい。俺はいつも考えてしまう。俺のやる事で、色々なモノが大きく変化する。その度に思うのだ…。俺は間違ってないのか…と。俺のやる事がもし間違っていると、それで苦しむ奴、悲しむ奴が生まれる。それが俺はたまらなく嫌なのだ…」 そう言うと歩を止め、そして振り返り覇水を今一度見た。 「戦場で嫌という程、人を斬る事よりもそれが嫌なのだ…。俺の間違いを傍にいて正してくれる人材が欲しい。俺は弱い人間だからな…」 劉邦はそう言うと魏粛と張良に微笑みかけた。 「張良、魏粛。今日は飲むぞ…。皆にも声をかけろ。飲みたい奴は一兵卒でも構わん。皆集まる様に伝えるのだ…」 劉邦はそう言うと幕舎に一人で入って行った。
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