第五章 曹参と韓信

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その日、項羽は楚軍本隊を率いて、咸陽に入城した。 その軍勢はかつての秦の始皇帝の巡行を思わせるモノだった。 「亜父よ…」 項羽は馬上で背筋を伸ばし、平伏す咸陽の人々を見ながら范増に声をかけた。 范増は項羽の少し後ろにいたが、項羽のその声に馬の頭を並べた。 「はい」 范増は項羽に頭を下げた。 「これで終わったな…」 項羽はそう言うとゆっくりと范増を見る。 「項王。まだ終わってはござらぬ…」 范増は視線を項羽から外した。 まだ、終わりはせぬ…。 項王の前に必ず劉邦は立ちはだかる。 范増は咸陽の街を見渡した。 「項王。非礼を承知の上で、今一度進言致します。この度の論功行賞で劉邦を…」 「くどいぞ。亜父…」 項羽は范増の言葉を遮った。 「しかし…」 「もう良い。劉邦など単なる泥臭い百姓に過ぎん。儂の敵ではない。そんな虫ケラを殺すなど何の意味も無い事だ…」 項羽は前を見た。 「もうその話はするな…」 そう静かに言った。 范増は黙って目を閉じた。 間違いなく近い将来、項羽は劉邦に煮え湯を飲まされる事になる…。 范増はそう感じていた。 「申し訳ありませぬ… 」 范増は再び項羽に頭を下げた。 この男にあの劉邦の脅威はわからんらしい…。 范増は項羽の背中を馬上からじっと見つめた。
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