第五章 曹参と韓信

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咸陽城の前に百万近い楚軍が集結していた。 従軍した者が中心なのだが、論功行賞を目当てに咸陽入城時に合流した軍勢も多数あった。 その軍も合わせると約百万の楚軍が城の前に整列している。 その中に劉邦の軍勢もいた。 その百万の軍勢を、城門の上から項羽は眺めていた。 そしてその項羽の前には秦の皇帝…、秦の最後の皇帝である子嬰が縄をかけられて立っていた。 この子嬰は劉邦が咸陽に入城した際に劉邦に一度許された皇帝だった。 しかし、項羽は劉邦とは違い、この子嬰を許す事はなかった。 激情型の項羽はこの子嬰を斬り、秦の血を絶やしてこそ、秦を滅ぼしたという事になる。そう信じていた。 「子嬰よ…。何か言い残す事はないか」 項羽は子嬰の背中にそう言う。 その言葉に子嬰は静かに口を開く。 「私は、秦帝国の最後の皇帝…秦の幕引きのための皇帝。今更、命乞いは致しませぬ…」 子嬰は項羽に背を向けたままそう言った。
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