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「ほう…。命乞いもせぬか。胡亥ならば必死に命乞いもしたであろうな…」
項羽は腕を組んでそう静かに言った。
「秦帝国は遅かれ早かれ、滅ぶ事はわかっておりました。しかし…」
子嬰はそう言うとゆっくりと項羽を見た。
その両目からは涙が溢れていた。
「しかし、項王…。秦が大罪を背負っている事は百も承知でございます。しかし…その罪は秦帝国の民にはございませぬ…。私の首級は差し上げます。ですから…許されるのであれば、秦の民の命、そして財産を救って頂けませぬか…」
子嬰は膝を折り、頭を地面につけた。
項羽は自分の前に平伏した秦の最後の皇帝、子嬰を見降ろしてニヤリと笑った。
「子嬰よ…。その秦帝国の皇帝としての最後の願い。それは見事である…」
項羽はそう言うと剣をゆっくりと抜いた。
「項王…」
子嬰は頭を上げた。
そしてゆっくりと城門の下に整列する楚軍を見た。
「たとえ始皇帝が生きておられたとしても、楚軍…いや項王には勝つ事は出来なかったかもしれませぬ…。私は幕引きのための皇帝。この首級、喜んで差し出します…」
子嬰はそう言うと城門の外に頭を出す様にして再び膝をついた。
項羽は子嬰の後ろに立った。
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