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干物を積んだ馬車の行商人とすれ違う。
六承はその荷車を横目に見ながら歩く。
六承はいつか海が見たいと思っていた。
中国は広く、六承の住む咸陽から海まではかなりある。
もちろん、大半の人が一生海など見る事はない。
六承は子どもの頃、祭傳の弟、祭拗から海の話を聞いた。
その叔父に聞いた海をいつか見てみたいと心に決めていたのだった。
何時間歩いただろうか…。
西の町まで半分程の距離に来たところに一人の老婆がうずくまっていた。六承はその老婆を見つけ、慌てて駆け寄った。
「どうかされましたか」
老婆は脂汗を流し力なく六承に微笑んだ。
「心臓が悪いと言われております。ただどうしても咸陽の息子に早く会いたいのです」
そう言うと胸を押さえて倒れ込んだ。
「しっかりして下さい」
六承は桑折を開けて、一つの薬を取り出して、老婆に飲ませた。
竹筒の水を老婆の口に流し込む。
老婆はそれを呑み込むと気を失った。
「おばあさん。おばあさん。しっかりして下さい」
六承は老婆を抱きかかえ、大きな木の陰に運んだ。
そして手際よく懐から手ぬぐいを出して、竹筒の水で湿らせ老婆の額に乗せた。
初夏とはいえ、日陰の無い道を歩くのは老婆の体力ではキツイだろう。
木陰は風が抜け心地よい。
六承はその老婆の顔を見ながら微笑んだ。
六承も幼い頃、祭傳の母に育てられた記憶があった。
数年前に他界したが、六承はその祖母が好きだった。
父の祭傳とは喧嘩ばかりしていたが、六承には優しい祖母だった。
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