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「この薬を飲んで下さい。もし必要ならば、咸陽の祭という薬商をお尋ね下さい。私はそこの六承と言います」
六承は老婆に薬を渡した。
「何から何までありがとうございます。本当に何とお礼を申し上げたら良いか…」
老婆は六承に何度も頭を下げた。
「必ずお礼に参りますので」
「いえいえ。そんなのは結構ですよ」
そう言うと老婆に微笑んだ。
「早く息子さんに会えると良いですね…」
「ありがとうございます」
老婆はまた深々と頭を下げた。
「では、私は先を急ぎます」
六承はそう言うと桑折を背負った。
「あの…」
老婆は六承の顔を見つめていた。
「はい」
六承は老婆を覗き込む様に見た。
「あなた様もお身体には気を付け下さいね」
老婆は今一度頭を下げて、咸陽へ続く道をゆっくりと歩き出した。
六承もその背中を見送り、歩き出した。
歩きながら、老婆が最後に六承に言った言葉が気になった。
その老婆が六承を見る顔がやけに寂しげだったのだ。
そんな事を考えていても仕方ない。
先を急ごう。
かなり遅くなってしまったし、帰りは真夜中になるかもしれない…。
六承は再び足早に歩き出した。
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